かきたてられる郷愁 迫れ、『西之湖園地』
──西の湖の西岸、よし笛ロードを辿る最中に「そこ」はある。
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投稿者:つくし
絵と文章をつくるのが好き。探検隊のロゴ作者。
旅も好きだが実はそんなにアウトドア派ではない。
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□目次
1.『西之湖園地』
見渡す限りの田畑の中、湖を横目にサイクリングロードを走って、木々の間を抜ければそこは、どこか不思議な空気が漂う静かな園地。
『西之湖園地』
近江八幡市、西の湖の湖岸からおよそ600m。西之湖園地は滋賀県が管理する湖岸緑地であり、琵琶湖国定公園の一部でもある。いくつもある園地の中で、地元では「焼田園地」としても知られていたこの園地は、その雰囲気の良さから時代劇の撮影も行われるらしい。
昭和25 年7月24 日、「琵琶湖国定公園」はヨシ原の原風景を守るために、日本で初めて国定公園に指定された。そして、西の湖のヨシ原を守るため、西之湖園地も保全対象となった。
地元では、平成22 年に近江八幡市と安土町が合併するまでは、西の湖は安土にあると思われていたこともあってか、「西之湖園地」はあまり知られていないのだという。また、この園地は自治会によって管理される一方、西之湖園地をフィールドに活動している団体もいくつか存在し、複雑な管理体系となっているという。
どこか懐かしさを感じるこの場所を、少しだけ覗いてみようと思う。
Tips:幻の不思議な椅子
かつて、西之湖園地の入り口には、古びた椅子が並んでいた。
しかも室外で使われることがないと思われる椅子で、何ともシュールな光景だった。捨てられているにしてはあまりにも堂々としていた。
地元の方によると、その正体は、20 年以上も前に行われたイベントで置き去りにされたもの。時を止められていた椅子は、2022年末ごろ撤去に至ったそうだ。
2.花園の記憶と渡り鳥
寒空が広がり、あたりは寂しげな雰囲気に包まれている。
奥へ向かおうと足を進めると、桜の木がアーチのように植えられていた。春ならば、花見客がいたのかもしれない。その先には小道が続く。今では草に覆われてしまっているが、かつては小さな池があり、花が植えられていたそうだ。広々とした空間が広がっている。
橋の近くには、立派な望遠カメラを構える年配の男性が一人。その目線の先に飛んでいるのは渡り鳥だろうか。秋から初春にかけて西の湖を訪れる野鳥を心待ちに、空を見上げていたようだ。
西の湖の内湖やその周辺ではヨシが群生しており、水鳥の生息地や繁殖地となっている。それを見るために、野鳥の会が訪れることもあるのだという。
橋に辿り着くと、目の前には内湖の静かで美しい景色が広がっていた。
Tips:源は雨水?!逃げたメダカたち
園地に入り、向かって右には、「めだかの学校」という立て札の立った池がある。湖とは繋がっていないこの池は、かつて地元のクラブにより復元され、1000匹ものメダカが放流された池だという。
地元の方の話では、以前大雨が降ったときにメダカが逃げてしまったそうだ。
メダカの行方やいかに……
3.巡る水郷、穏やかに
園地に向かう最中にも、草木の間からちらりと覗いた船頭の笠。
「屋形船」である。
屋形船の巡る近江八幡の水郷は、重要文化的景観第一号に選定された。また、水郷めぐりは琵琶湖八景の一つにも数えられており、日本遺産にも指定されている。
近江八幡市内では4社が「水郷めぐり」を行っており、ルートにはいくつか種類がある。また、手漕ぎ舟とエンジン舟の2種類がある。さらに、貸し切り舟限定となるが食事を楽しみながらの水郷めぐりもできるようになっている。
延々と広がるヨシ原を眺めつつ、舟の流れに身を任せる。カイツブリやアオサギが泳いでいる。春は桜、夏は緑、秋は落ち葉、冬は雪。のどかな水郷は四季によってその姿を変える。
屋形船はちょうど、西之湖園地の橋の下をくぐり抜ける。橋から見下ろせば、何隻も屋形船が抜けていくのが見えるのだ。
のんびりとたゆたう遊覧船は、船頭のよく通る声と朗らかな笑い声で満たされていた。
Tips:環境に優しく
西之湖園地の近くには田畑が広がっており、田圃道が縦横に通っている。農業を営むには水が必要だ。幸いにも西の湖が近いから水には困らない……と思ったのだが。
水の溜まった浴槽がそこかしこに見られる。
地元の方によると、湖の水はもちろん、浴槽の水も農業用水として使われているそうだ。
4.別世界
こんもりと生い茂った木々をくぐり、橋の上に立てば、景色は壮観。
隆々とそびえる山々に、青く煌めく水面。どこまでも広い青空。夕暮れ時であれば、沈む夕陽も見られることだろう。
そのまま橋を渡った先は「奥地」──西之湖園地は2つの島から成っており、昔はさらに奥にも橋があったそうだが、現在では奥地まで行くには手前の橋を渡るしかないのだ。この橋が別世界感を一層駆り立てる。
そのまま左手に進み、ヨシをかき分け、ジグザグに渡された仮設足場を進んでいくと、最奥まで辿り着く。そして、そのままぐるりと一周回って元の場所に戻ってこられるようになっている。
最奥がどうなっているかは、是非自分の目で確かめていただきたい。
Tips:思い出せ、子供心
当記事の作成にあたり、もちろん執筆している私は現地を実際に訪れている。奥地へ向かう際は、ワクワクとした心踊る気持ちを体感した。
草木をかき分け奥地へ向かう、冒険心をくすぐるこの体験。独特な空気感に、幼い頃を思い出すかもしれない。
たまには忙しい日常から離れ、ノスタルジックな気持ちを味わってみては?